せんげんさん
 自宅近所に浅間神社がある。毎年、春になると浅間さんの祭りが始まる。ボクたちはその祭りが終わるまで春休みだった。

 3月の終わり頃、浅間通りに露天商達の線引きが始まり、準備に慌ただしくなる。ウチの町内も氏子になっているので「煉り」の準備に大忙し。小学校2年生の時にウチの町内に順番が廻ってきて「お煉り」に出た。それはそれで、面白かったが、子供心に恥ずかしかったので、5日間参加することになっていたが、2日間しか参加しなかった。
 
 どこに行っていたかというと、浅間神社のお祭りに行ってたのだ。おこづかいを持って、露天商のトコロにいっていたのだ。浅間さんの祭りに行くと言うことは、露天商のトコロに行くと言うことと同じだ。毎年毎年、毎日毎日でかけた。
 いろいろな珍しいモノを売っていて好奇心でイッパイになった。

 ●ひよこ
 何年か後、ピンクとか薄グリーン色のひよこが売られていたが、ボクたちのころは自然の色だった。紙の袋に入れてくれて自宅へ持ってきて、木箱に入れて飼い始めた。箱の底にスクモを敷き、その中にヒヨコを入れ、夜は暖房のため裸電球をぶら下げた。それを毛布で包んだりもしたが、いつしか死んでしまった。決して大きくはならなかった。

 ●ブリキのポンポン船
 手の平に乗るくらいの大きさなんだが、小さな水タンクがあり、そこへストローを使って水を入れ、タンクの下に短いローソクを立て、火を着けると蒸気の力で船が走る。この水を入れるのがタイヘンだったけど、オヤジが入れてくれた記憶がある。大きな金タライのなかでやった。

 ●樟脳船(ナフタリン)
 セルロイドで出来た小さな船で、スクリューに当たる場所に樟脳を挟み込めるようになっていた。樟脳を小さくつぶして、そこへ挟み込み、水を張った金タライの上に浮かべる。
樟脳が溶けて、その表面張力の力で船が進む。水の表面が樟脳の粉でイッパイになると、古新聞を浮かべて、それに付着させて綺麗な水にした。

 ●万年筆
 万年筆工場が火事になったという新聞記事を目の前に置き、その前に泥とか燃えかすが小山のように積み上げられてる。その中から万年筆を捜し出し、キレイに掃除をして子供たちに売る。まあ、最初は書けても次第に書けなくなってしまうようなモノだったけど、おじさんの名セリフに感動して、思わず買ってしまった。

 ●自動拡大器
 パンタグラフ状になった木片を使って小さな写真をなぞることによって大きな絵が描ける…というしろもの。木片に何カ所か倍率の穴が開いていて、その穴にネジを入れ込んで描くのだが、おじさんが描くようには上手く描けない。

 ●焼きソバ
 境内へ入ると池の近所から「ソースの焦げる匂い」がしてくる。焼きソバだ。まだ家庭で焼きソバを作らない時代だったと思う。これを食べたくて食べたくてお祭りを待っていた感がある。美味しかった。キャベツの芯も火が通っていて大好きだった。
 大人になってインスタントの焼きソバを初めて食べた時、この味とそっくりだった。

 ●ひょうたん池上の飛行機
 ひょうたん池を横断するように頭上にロープを張ってあって、そこをブリキの飛行機が行ったり来たりする。

 ここに書ききれないほどのオモチャがお祭りの雰囲気を盛り上げていた。多分、桜の花も咲いていただろうが、そんなコトは覚えていない。



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